Die Herzen des Rosas, der Herzen des Weiß.

 

 

「花見をするぞ」

「はい?」

 

ある日の昼下がり。シュミットの突然の一言に、エーリッヒは思わず自分の耳を疑った。

 

「すいません、シュミット今何と・・・?」

「今度の週末はレースが休みだろう。天気予報も晴れだと言っていた」

「はあ・・・で、何の花を見に行くというんですか?」

 

スパーン!!

シュミットの持っていたファイルが勢いよく音を立てた。

 

「つ・・・っ、何をするんですかシュミット!」

 

頭を押さえながら涙目で抗議するエーリッヒに、シュミットは馬鹿かお前は、とでも言いたげな不機嫌面で応えた。

 

「当たり前の事を訊くな。花見といえば桜に決まっているだろう」

「それは日本だけでは・・・」

 

第一、桜の時期はもう終わっているのではなかろうか。

そんなエーリッヒの心配をよそに、シュミットはすでにいそいそと花見の準備に取り掛かっていた。

 

 

そして、花見当日。

 

「・・・シュミット?」

「何だ、エーリッヒ?」

「何だじゃありませんよ。一体どういうことなんですか、これは!?」

 

集合場所には、シュミットとエーリッヒの二人しか来ていなかった。

 

「10時にこの場所に集合といったのはお前だろうが」

「そういうことを訊いているんじゃありません!

ミハエルたちはどうしたのかと訊いているんです!一緒じゃないんですか!?」

 

FIMAへの書類を提出しに行ったエーリッヒを除いて、アイゼンヴォルフのメンバーはつい先刻までミーティングをしていた。

当然、ミハエルたちとシュミットは一緒に来ると思っていたのだ。

 

「リーダーなら急な用事だと言ってアドルフとヘスラーを連れて出かけてしまったぞ」

「何ですって!?」

 

あのミハエルが花見をキャンセルしてまで用事に出かけるなんて。

ミハエルたちが来られなくなった事よりも、エーリッヒにとってはその事のほうが驚きであった。

 

「と、いうわけで今回は俺と二人っきりだ。まさか、嫌だというわけではあるまいな?」

 

恐ろしすぎるシュミットの満面の笑みを目前にして、エーリッヒに「嫌です」などと言える訳がなかった。

監督には強気に出られても、シュミットやミハエルにはかなわないのだった。

(正確には元、監督である。ある一件を境に、アイゼンヴォルフ、少なくとも現在一軍には監督はいない。

監督解雇にあたりミハエル、シュミットを筆頭とした一軍が一役買っている、と言うか首謀者であるということは周知の事実である。

ちなみにこれも周知の事実ではあるが、第一回WGPにて一軍到着までの間二軍のリーダーを務め、

監督とメンバーの間で板挟みになっていたのはエーリッヒである。詳しくはアニメ「爆走兄弟レッツ&ゴー!!WGP」

ビデオ第6巻74話を参照されたい)

 

「ももも、もちろんですよ!そんな事言う訳がないじゃないですか!」

「そうか!なら決まりだな」

 

シュミットと二人きり。エーリッヒとしても願ってもないシチュエーションだった。

ただ、一騒ぎした後自分が一人でシュミットの面倒をみなければならないと

容易に想像がつくのが頭の、そして胃の痛いところであった。

もっとも、残りのメンバーがいたところで今度はミハエルの面倒をみるので精一杯なこともわかっているのだが。

この間など、ベランダでフーセンガムを膨らませていたらそのまま空の散歩に出かけてしまい、

捕獲するのに一苦労だったほどである。その前は鳥にさらわれて、ヘリでの捜索を余儀なくさせられた。

もともと天才肌と言うか、常人離れしたところのあったミハエルだが、最近はむしろ超人に片足を突っ込んでいる気がする。

そのうち光を放ちながら空中に浮かんだり、宇宙と交信をし始めたりしないだろうか。

そんな風に、いい加減エーリッヒの心配がよくわからない方面に傾きだした時だった。

 

 

ザ・・・・・・・・・

 

 

「うわ・・・・・・」

 

 

一陣の強風が、花吹雪となって二人の周囲を舞った。

ふと気がつけば、いつの間にか目的の木の前まで歩いて来ていたのだった。

 

「・・・本当に、咲いていますね・・・」

「どうだ?俺の言ったとおりだっただろう?」

 

それは、大木というには多少若かったが、確かに桜の木だった。

もう5月だというのに、枝には満開の花が咲いている。

少し距離をおいた所に立つ他の木々は、すでに鮮やかな緑色の葉をつけており、

それが一層桜の花の色を引き立たせた。

 

 

「綺麗ですね・・・」

「全くだ」

 

春の陽射し。風。木々の緑。そして、桜のピンク。

 

「あ、でも、思うんですけど」

「何だ?」

「どうして、今ごろ咲いているんでしょうね?」

 

考えてみれば、もっともな話である。

不思議そうな表情のエーリッヒに、シュミットはあっさりと応えた。

 

「そんなことは決まっている」

「わかるんですか、シュミット?」

「咲きたかったんだ」

「・・・・・・」

 

エーリッヒは、あらためて隣にいるシュミットを見つめた。

いつも尊大で頑固、そのくせ気まぐれに発せられる根拠のない自信に満ち溢れた言葉は、

聞く者の心を掴んで虜にする力を十二分に持ち合わせている。

少なくとも、エーリッヒはそう思っていた。

 

「・・・Das Herz des Rosas」

「?何か言ったか?」

「あ、いえ・・・

・・・・・・この花びら、まるでハートのようですね、と言ったんですよ」

 

そう、まるでこの桜のピンクのように気高く上品な、しかしどこか見るものを浮き立たせ、

酔わせるような、悪戯で危険な輝きを持ったハート。

 

「なるほど、そう言われてみればハートに見えなくもないな」

「そうでしょう。ハンブルグにも桜は沢山咲きますが、今初めて気が付きました」

「お前の街は桜でも有名だからな。やはり花はハートか?」

「ええ。家の桜は野生種で、もっと小ぢんまりとした白い花でしたが」

 

白い花。シュミットは、ふと隣にいるエーリッヒに目線を移した。

心地よさそうに桜を眺めるその瞳は控えめだが輝きを持ち、表情は純粋に花を愛で、穏やかさに包まれている。

少なくとも、シュミットにはそういう風に見えた。

 

「・・・Das Herz des Weiß」

「?何か言いましたか?」

「いいや、白い桜もまんざらではないと言ったんだ、地味だがな」

「ふふ、地味ですか。シュミットらしいですね」

 

そう、地味な田舎育ち。だがそんな中でも、あるいはそんな中だからこそその凛とした存在感を漂わせ、

ひっそりながらも穢れを知らぬ輝きに満ちた白いハート。

 

「・・・しばらく、休んでいきましょうか」

「・・・そうだな、休んでいこう」

 

二人は、桜の下でひと時を過ごした。

ハートは、いつまでも降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、帰還後。

 

「子どもの日レースぅ!?」

 

そこには、嬉々として話すミハエルと呆然とする二人がいた。

 

「そっ。今年はうちが主催したんだよv面白かったよ〜vゴーくんも出てたしねv」

「ちょっと待って下さい、どうして僕たちに黙っていたんですか?」

「え〜、だってたまには君たち二人っきりにしてあげようと思ったんだもーん」

「いや、確かにそのお心遣いはありがたいんですが・・・」

「それでね、前は出た人が8人しかいなかったでしょ?(ビデオ3巻)面白くないから今回は全チーム最低1名参加にしたんだ。

凄かったよ〜vジュリオは晴れ着着てジョーと張り合ってたし、フォックスたちはリーダーに恥ずかしい格好はさせられないとか言って

揃って参加しちゃうし、二人がいなかったのはホント残念だったよ〜」

「僕たちの知らない間にそんなことが・・・」

「でも一番傑作だったのはブレットだね!チームメイトに無理矢理参加させられてさぁ、あの格好はホント面白かったよ〜v」

「ブレットが・・・だと?」

「・・・?あの?シュミット?」

「と、いうことはなにか!?俺はみすみすアイツを笑いものにできるチャンスを棒に振ってしまったというのか〜!?」

「わっ!シュミット!落ち着いてください!」

「大丈夫だよ、ちゃんとビデオも撮ってあるから〜v」

「そういえば、リーダーも出てましたよね。私は撮影があるんで出ませんでしたが・・・」

「あぁ、そういえば俺も出ましたよ。『魔女っ子ドイツマジカルアドルン』のコスプレで・・・」

「魔女っ子はどうでもいいんだ〜〜!!」

 

エーリッヒと二人っきりで花見ができたことを喜ぶ一方で、レースを見られなかったことを激しく後悔するシュミットだった。

エーリッヒはというと、必死にシュミットをなだめつつ、ミハエルにせがまれて紅茶を淹れながら、

『そういえばアメリカの桜はどぎついピンク色なんだっけなぁ』などという事を考えていたのであった・・・。

 

 

 

 

・・・ハートは、いつまでも降り注いでいた。

 

 

 

 

Ende.

 

 

書いた奴が言うのもなんですが、バカですねぇ(笑)バカップル(笑)

タイトルは英語で「The hearts of pink, the hearts of white.」の意味で、桜のイメージです。

LogoVista』のオンラインテキスト翻訳を参考にしました。

英・日・独・仏・伊・スペイン・ポルトガルの相互翻訳、前記の7国語から韓国語への翻訳ができるすぐれものです★

他には、英(Английский)・露(Русский、独(немецкий)・露、仏(французский)・露の相互翻訳ができる

Lycos переводчикライコス翻訳)』(ロシア語サイト)とかもあります☆

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